駆け込み賃貸物件購入による相続税対策と平成30年税制改正

平成30年度の税制改正で、小規模宅地の特例のうち貸付事業用宅地等について、相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等については、相続人の方が相続の開始のタイミングまで3年を超えて引き続き事業と呼べる規模で不動産賃貸業を営んでいた場合を除き、小規模宅地の特例の適用対象外となりました。

 

小規模宅地の特例とは、相続税申告の際の相続財産の評価額の計算において、一定の要件を満たす土地につき一定の面積の土地まで定められた率での評価減を行えるというものです。貸付事業用宅地の場合、50%の評価減をこの制度で受けることが出来ます。

 

これにより、もともと不動産賃貸業を営んでいた場合を除き、相続発生前に駆け込みで賃貸物件を取得し小規模宅地の特例を受けることが不可能になりました。

 

もっとも、小規模宅地の特例が使えなかったとしても、相続税の観点からは不動産の賃貸物件を保有することは節税につながることが多く、今回の改正で不動産の賃貸物件取得が相続税対策上無意味になったというわけではないです。

 

ただ、小規模宅地の特例が使えなくなることにより、同制度が使える場合と比べ節税効果は低くなります。当然不動産市況の変化や物件の管理のしやすさ等、税務以外の要因も含めた総合的な判断が必要となりますが、小規模宅地の特例を賃貸物件で受けられたい場合は、早めの相続対策がより大切となります。

福岡都市圏の路線価の急激な上昇と相続対策(住宅地編)

福岡都市圏の平成29年度の路線価の上昇率。
前回は、福岡市の都心部について年率1割から2割程度の激しい上昇率となっていることを取り上げましたが、続編として福岡市南区を対象とし、福岡市近郊~郊外の住宅地について取り上げてみます。

 


1箇所目は油山のふもとにある福岡市南区柏原の、とあるところ。

こちらの路線価は、

 

平成28年度から1年間の路線価上昇率:5.5万円→5.6万円(1.8%の上昇)

 


路線価は1千円単位で発表されているのですが、ちょうどその最小刻みの1千円だけ評価額が上がっておりました。

上昇はしているものの、前回取り上げた都心部と比べると、上昇率は1%台と非常にゆるやかなものとなっています。

 

 

2箇所目は大橋から少し南に下ったところにある曰佐の、とあるところ。

こちらの路線価は、

 

平成28年度から1年間の路線価上昇率:8.3万円→8.6万円(3.6%の上昇)

 

先ほどの柏原よりは高い上昇率、とはいえやはり福岡都心部より上昇率は穏やかです。

 

 

3箇所目は中央区に近くよりまちなかである高宮の、とあるところ。

こちらの路線価は、

 

平成28年度から1年間の路線価上昇率:15.0万円→16.0万円(6.7%の上昇)

 

年率5%以上の上昇と、さきほどの2箇所と比べても高い上昇率となっています。

やはり、都心部と比べると地価の動向と同様、路線価の上昇率も穏やかであるという結果となっています。

とはいえ、高宮のように路線価の年間の上昇率が5%を超えているような場所もあります。

 

住宅地であったとしても、特に都心に近い場所については路線価の上昇率がかなりの率となっていることも十分にあり得ます。

しかも、この上昇率はあくまで平成28年度から平成29年度の1年間での上昇率です。それ以前から路線価が上昇傾向にあった場合、数年前からの路線価の乖離は当然もっと開くこととなります。数年前に相続税のシミュレーションを行っている場合でも、状況の変化に対応するためシミュレーションのアップデートを行う事は、やはり大切かと考えます。

福岡都市圏の路線価の急激な上昇と相続対策(都心部編)

平成29年7月3日に、平成29年分の路線価が国税庁より公表されました。

 

福岡都市圏の地価は、ここ数年激しく上昇しており、高値での取引が続いておりますが、平成29年度の今年の路線価が、昨年の平成28年度の路線価と比較してどの程度変動したのか、軽く調べてみました。

 

最初に、弊所のある場所の路線価です。弊所は福岡市中央区高砂、地下鉄渡辺通駅と西鉄及び地下鉄の薬院駅の近辺に位置しております。商業地と住宅地が混合しているエリアですが、都心回帰の流れを受け、人口増加率の高い福岡市の中でもマンション開発が非常に盛んなエリアです。

 

 

弊所のある場所の路線価ですが、

 

平成28年度から1年間の路線価上昇率:21.5万円→23.5万円(9.3%の上昇)

 

なんと、1年間で1割近い上昇です。

 

 

 

次に、福岡市最大の繁華街天神で、渡辺通りのパルコ横の路線価の上昇率を調べてみました。

結果、

 

平成28年度から1年間の路線価上昇率:560.0万円→630.0万円(12.5%の上昇)

 

こちらは、1年間で12.5%と、1割を超える激しい上昇率となっています。

 

 

最後に、九州新幹線の開通と前後した駅前再開発や、地下鉄七隈線の延伸で近年勢いがある博多駅近辺について、大博通りの日航ホテル横をサンプルに路線価の上昇率を調べてみました。

結果ですが、

 

平成28年度から1年間の路線価上昇率:266.0万円→316.0万円(18.7%の上昇)

 

なんと、こちらは1年間で18.7%と、ほぼ2割の上昇率となっておりました。

 

路線価は、土地の相続税評価の面積当たりの評価単価の基礎となるため、路線価の上昇は土地の相続税評価額にダイレクトに影響してきます。

 

さらに、相続税は相続財産の評価額に応じた累進課税となっているため、相続税額への影響率は、路線価の上昇率以上となります。

 

路線価の急激な上昇で怖いのが、数年前に相続税額のシミュレーションを行った結果そのままで相続対策を考えていると、実際の相続発生時に想定外の相続税額となりかねないことです。

 

ここ数年の地価動向、そして路線価の動向を鑑みるに、以前相続税額のシミュレーションを行われている場合でも最新の路線価等を元にシミュレーションのアップデートが必要であろうと考えられます。

 

 

2017年税制改正と相続対策の封じ込め(海外編)

配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しが騒がれている平成29年度与党税制大綱ですが、相続税、贈与税といった、いわゆる資産税関連で、これまで節税対策として行われてきた一部の節税策を封じこめるために、目立った改正がなされています。

今回は、そのうちの海外関連の改正について取り上げます。

今回の税制改正で、海外関連の改正としては、相続税等の納税義務の範囲の拡大が予定されています。

 

そのうち第一として、日本国籍を有する方々が海外に住んでいた場合に、日本で相続税を納める義務の範囲が広がるというものがあります。

日本国籍を有する方々について、これまで被相続人等の財産を渡す側の方と、相続人等の財産を貰う側の方がともに過去5年間のあいだ日本に住んでいなかった場合(もう少し書くと、この「住んでいる」の定義は非常に論点となる部分ではありますが)、国外の財産に対しては相続税や贈与税の納税義務の対象とはなりませんでした。

平成29年度の税制改正で、日本に住んでいなかった期間について、過去5年間であった判定期間が、過去10年間に延びることとなりました。

 

第二として、日本国籍を有しない方々についても、被相続人等の財産を渡す側の方が過去10年以内に日本で住んでいたことがあった場合、国外の財産についても相続税や贈与税の納税義務が発生することになりました。

 

一般の方にはなじみのない改正内容ではありますが、一部の富裕層の間では子弟を5年超留学や移住させるなどしてご自身もそれについて行かれるという、相続税や贈与税を逃れるための究極の相続対策が実際になされております。

相続対策のために海外に数年住むことを我慢されている方々に対しては、ダメージの大きい改正であると言えます。

 

なお、これらの税制改正は、平成29年4月1日以後の相続、遺贈、贈与に対して適用がなされることになります。

2017年税制改正と相続対策の封じ込め(国内編)

配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しが騒がれている平成29年度与党税制大綱ですが、相続税、贈与税といった、いわゆる資産税関連で、これまで節税対策として行われてきた一部の節税策を封じこめるために、目立った改正がなされています。

 

今回は、そのうちの海外関連以外の改正について取り上げます。

 

海外関連以外の改正で、相続税、贈与税の節税対策を一部封じ込めることとなる改正ポイントとしては、目立つもので以下の3つが挙げられます。

 

第一として、取引相場のない株式の評価の見直しが行われます。具体的には、類似業種比準方式による評価について、これまで、純資産、利益、配当の評価の比重が1:3:1であったのが、1:1:1に改正されます。

結果、これら3つの要素の中で一番調整が行いづらい純資産の評価の比重が従来の1/5から1/3と上がることとなり、例えば、利益及び配当の金額を調整し、株式の相続税や贈与税上の評価が下がったタイミングで株式を贈与する、といった節税手法に対して節税のメリットが減退することになります。

 

第二として、広大地の評価の見直しが行われます。広大地とは、おおざっぱに言えば、三大都市圏で500平米、それ以外の地域で1,000平米以上の土地のうち一定のものを指します。広大地に該当すると、広大地でない土地と比較して、大体45%から65%という大幅な評価を引き下げた上で、相続税や贈与税の税額計算を行うことが出来ます。

この広大地の評価方法につき、見直しがなされることとなりました。

 

第三として、いわゆるタワーマンションの評価の見直しが行われます。これまで、タワーマンションの高層階については、実際の時価と相続税、贈与税の計算で用いられる評価額に大幅な乖離があり、それを利用した節税が広く普及していました。これに対し、タワーマンションの建物の相続税、贈与税上の計算で用いられる固定資産税評価額の計算について、建物階数を要素として入れ込むことで対策がなされるととなりました。

今後取得されるタワーマンションについては高層階の相続税、贈与税上の評価が上がることとなります。

 

次回は、海外関連について取り上げます。

東京での富裕層向けサービス勉強会のサテライト会場試験運用

先日、東京で行われている富裕層向けサービスを中心とした勉強会の、福岡のサテライト会場の試験運用を行ってみました。
 
富裕層向けサービスについての首都圏と福岡の情報格差を埋めたいというのは、私が福岡に帰ってきてからいつかは実現したいと考えておりました。東京で勉強会を主宰されている方々、そして、この勉強会を福岡でも行おうと私を誘って下さった方々には、感謝するのみです。

今日の勉強会では福岡の弊所の会議室以外にも、大阪、シンガポールとも繋がっておりました。技術進歩の恩恵を切に感じます。
 
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タワーマンション(タワマン)節税の監視強化の報道を、軽く解説してみました。

先日、タワーマンション節税に対する相続税節税の監視強化について各メディアで報道がなされました。

 

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO93575700S5A101C1CR8000/

http://www.asahi.com/articles/ASHC254R6HC2UTIL02C.html

http://www.sankei.com/life/news/151104/lif1511040025-n1.html

 

 

この報道について、税制が変わったといったとらえ方をされている方も多いかと思います。

 

しかし、実はそうではありません。この報道以前から、タワーマンションを利用した過度の節税で否認がなされた話は耳にしていました。各種報道にあるとおり、「チェックを厳しく」「監視強化」と言う話に過ぎません

 

相続税は、相続する財産の評価額に応じて税額が課される税金となっています。

そして、その財産の評価について、法律上は相続税法上第22条の「時価」で評価しましょう。という条文がほぼ全てであったりします。

 

タワーマンションが相続税の節税になる。相続税を計算する際に評価が安くなる。といった話は、相続税の計算にあたり時価をどう計算するかを具体的に取り決めた「財産評価基本通達」という、いわば役所の中での取り決めごとに基づいた話となります。

 

しかも、「財産評価基本通達」の6で、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」。平たく言えば、「この「財産評価基本通達」という役所の中の取り決めごとに従った計算結果が「時価」とは呼べないような結果の場合には、役所の中の取り決めごとに従った評価を行わなくていいよ。」という定めがおかれていたりします

 

相続税の節税(相続税以外の税金でもそうだとは思いますが)は、テクニック論のみで行うべきものではありません。なぜそうなるのかといった趣旨の理解やバランス感覚なく、法の抜け穴感覚で過度の節税を行おうとすると思わぬ落とし穴に陥ることになります。

一般社団法人未来経営研究所様主催の事業承継・M&Aセミナーの講師を担当することになりました

弊所代表大津留が、一般社団法人未来経営研究所様主催の電気ビル共創館BIZCOLIにて開催される事業承継・M&Aセミナーで、講師を担当させて頂く事となりました。

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建設業界、

不動産業界、

運送・卸売業界、

医療業界

と、業種別の4回シリーズとなっており、原則予約なしで参加出来ます。
ご興味のあられる方、ご参加お待ちしております。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度の使いどころ -その2/2-

平成27年4月よりスタートした、「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度」

 

前回のブログで取り上げたとおり、
この制度は、節税対策という観点からはあまり使える制度ではありません

 

しかし、節税対策に限定せず相続問題に総合的に取り組む場合、相続対策の選択肢を広げてくれる制度であったりします。

 

例えば、お孫様が4名おり、うち2名にそれぞれ1名ずつのお子様(ご本人様から見ればひ孫様)がおられる場合。

 

ひ孫様2名に教育資金の一括贈与の非課税制度を活用して贈与を行おうとした場合、お孫様4名のうち、お子様がおられる2名と、まだおられない2名の間で贈与について不平等が生じてしまいます。

 

かといって、それを調整するためにお子様がまだおられないお孫様2名にも同額の贈与を実行すると、その贈与に対して贈与税が課されてしまう。

 

このような場合に、まだお子様のおられないお孫様2名に対しては結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を活用した贈与を実施することで、お孫様4名の間で不平等感を与えることなく、教育資金の一括贈与の非課税制度を活用する道筋を開けることとなります。

 

このように、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度はそれ単体では節税対策としてはあまり役立たない制度ですが、他の制度と組み合わせながら総合的に相続対策を進める上において、活用出来る有意義なツールの一つであると私は考えます。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度の使いどころ -その1/2-

平成27年4月より、「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度」がスタートしました。

この制度は、祖父、祖母、父、母等の直系尊属の方が20歳以上50歳未満の方に対して結婚および子育てのために将来充てる資金を一定の方法により贈与し、所定の届出を行った場合に1,000万円まで(うち、結婚に充てられる資金は300万円まで)について贈与税が非課税となる制度です。

対象となる結婚・子育て資金ですが、具体的には、

結婚資金・・・・挙式費用、結婚披露宴の費用、新居の入居、引っ越し費用等
子育て資金・・・不妊治療・妊婦検診に要する費用、出産のための入院費、分娩費等、子供の医療費、幼稚園・保育園等の保育料等

となっています。

 

実は、この制度、節税対策としてはほとんど活用する意味がありません

 

なぜなら、

結婚や子育て資金も、発生した費用を祖父、祖母、父、母等に払ってもらう分には贈与税はそもそも原則非課税であり、

また、

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度は教育資金の一括贈与の非課税制度と違い、この制度の利用期間中に資金の贈与者がお亡くなりになってしまった場合、結婚・子育て資金として未使用の残額について相続税の対象となってしまう

からです。

 

節税対策として見た場合の唯一の利点は、祖父や祖母から贈与を受けた場合に、贈与者である祖父、祖母の相続が発生した場合に、対象財産がいわゆる相続税額の2割加算の対象から外れることくらいです。

 

では、節税対策という観点だけから見ればあまり意味のないこの制度、活用方法は本当にないものなのでしょうか?

 

それについては、次回取り上げてみます。