令和3年度税制改正大綱と住宅ローン控除

令和3年度の税制改正大綱が、12月10日に発表されました。

 

今回の税制改正大綱で身近な改正点の1つに、住宅ローン控除の改正があります。

ポイントは2つです。

 

1つが、床面積要件の下限の緩和です。

新築は令和2年10月から1年間の間に、それ以外は令和2年12月から1年間の間に契約し、令和4年末までに入居した場合、合計所得額が1,000万円以下のものについては床面積が50平米でなく40平米以上であれば住宅ローン控除を受けられるようになりました。

 

もう1つが、年利1%未満の借入金利で住宅ローンを借り入れている場合の住宅ローン控除の金額の見直しです。

これまでは、年利1%未満の住宅ローンについても年末残高の1%の税額控除が受けられていましたが、これを、実際の支払利息の額も控除額を設定する方向になりました。こちらは、具体的には令和4年度の税制改正で内容が決まる予定です。

 

なお、床面積要件の下限の緩和については、住宅ローン控除だけでなく住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置についても同様の措置が予定されています。

海外中古不動産に係る損益通算等の特例 の創設

海外中古不動産について、近年、節税策として利用されることが流行っていました。

これにつき、税制改正で規制が入りました。

 

海外の建物は、日本の建物と比べて実態上耐用年数が非常に長いものがあるところ、日本の建物の耐用年数の計算を使用して実態よりも多くの減価償却費を発生させ、それにより発生する赤字と他の所得を損益通算し所得税の金額を圧縮するスキームが流行っていました。

 

今後は、上記の方法により海外の中古不動産で赤字が出た分について、他の所得との損益通算が出来なくなります。

 

もっとも、これにより計上出来なかった赤字については、物件の売却時に調整してくれます。

実態と乖離した計算上の減価償却の先取りにつき、他の損益との通算部分まではその先取りを認めない。ただ、先取りとなる分について過剰な減価償却部分を認めないだけであって、先取りできなかった分の所得については最後に調整されるという設計になっています。

 

この改正について、個人的には実態から乖離した形での過度な節税について規制したものであり、妥当な改正かなと思っています。

 

もっとも、この手法をアテにして長期のタックスプランニングを組まれていた方は予定が狂うこととなります。税制の大枠の趣旨から離れる形での節税対策については、少なくとも中長期での税制改正リスクについて考慮しておく必要があると私は思います。

 

上記改正は、2021年分からの適用となります。

エンジェル税制の税メリット以外の副次的効果

今回の所得税の確定申告において、顧問先のエンジェル税制の申請を行いました。

エンジェル税制とは、投資家が一定の要件を満たすスタートアップ企業等に投資する場合に設けている優遇税制で、投資を行う側に税メリットが発生する制度となっています。

 

今回は、投資を受けた企業サイドの支援としてのエンジェル税制の対象企業となるかの確認申請手続きと、個人投資家サイドのエンジェル税制を利用した確定申告手続の両サイドを弊所にて行いました。

 

エンジェル税制の対象企業となるかの確認手続きを企業サイドの手続きは都道府県庁にて行いますが、その際に県の成長企業支援の担当の部署に対象企業を認知して貰えるという副次的効果もありました。

 

特に、設立後1~3年の企業にとっては、投資家として恩恵を受けやすい優遇措置の要件を満たしやすく、エンジェル税制活用の検討の価値はあるのではと思います。

新型コロナと所得、贈与、個人の消費税の申告期限等の延長について

皆様、既にご存じかとは思いますが。

 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kansensho/pdf/0020002-130.pdf

 

ちなみに、今日税務署の方と会話する機会があったのですが、本当に突然の決定だったようで、

いや、噂は0ではなかったものの実際には絶対しないと税務署の中の誰しもが思っていたらしくて、

延長実施の件を知ったのは、昨日、確定申告相談会場で納税者の方から知らされて、

とのことでした。

 

申告期限が1ヶ月延長されたものの、この状況下、今後何が起こるか分からないと思います。

極力、申告期限の延長はなかったものと考えて余裕を持って、

出来れば当初の申告期限までに、申告を済ませたいものです。

2020年度税制大綱と海外不動産節税封じ

今月12日、与党自民党より2020年度の税制大綱が発表されました。

与党の税制大綱は、衆参の政権ねじれ等が発生していない限り、通常はその内容が今後の税制改正で実施されていくことになります。

 

所得税の節税スキームの1つに海外不動産スキームというものがあります。

これは、日本の税法において建物を減価償却するに当たっての耐用年数は建物の構造によって決まってきますが

海外の建物は日本の建物と比べ非常に長い年数使用出来るように作られているため、

海外の建物について、構造以外の要素を入れずに耐用年数を決定すると実態よりも耐用年数が短くなり

早めに損金が取れてしまうというスキームです。

 

特に、このスキームは所得の高い方が個人について、

海外不動産の減価償却で発生した所得のマイナスと給与所得や事業所得を相殺することで、

大きな節税効果に繋がっていました。

 

それが、今回の税制改正で

中古の海外不動産で建物の構造と建築後の経過年数により機械的に計算される

耐用年数を用いている場合、海外不動産以外との所得との損益通算が一切出来なくなりました。

 

 

海外不動産の節税スキームは特にここ数年メジャーなスキームとなり、

税制改正がなされるのも時間の問題と言われていましたが、

ついに今回の税制改正で網がかかった格好となりました。

 

海外不動産の節税スキームに限らず、

抜け穴的な節税策はこれまでも税制改正によりその穴が封じられてきました。

節税策を考える際は、将来の税制改正の想定をしておくことも大切です。

平成32年度分以降の個人事業主の確定申告とe-tax

平成30年度の税制改正で、基礎控除の原則10万円の引き上げとセットで、給与所得控除、公的年金等控除、の金額をそれぞれ10万円引き下げられることとなりました。

 

ちなみに、給与所得控除については子育て世帯を除き、850万円を超える部分に対する給与所得控除の増加分がなくなり、前述の一律10万円引き下げと合わせると、給与所得控除の上限額は220万円から195万円へと25万円引き下げられることとなります。

 

青色申告特別控除も同様に、控除の金額が65万円から55万円へと10万円引き下げられました。

しかし、青色申告特別控除の場合、e-taxによる電子申告又は電子帳簿による保存を行う場合は、引き続き65万円の控除が受ける事が出来ます。

青色申告特別控除の控除額を増やしたい場合、e-taxによる電子申告又は電子帳簿のどちらを選ぶのが実務上の手間が少ないか、こちらは、e-taxによる電子申告を行う事で要件をクリアした方が、圧倒的に手間は少ないです。

 

これまで、e-taxによる電子申告を行うことについて実利的なメリットが乏しかったですが、この改正により、個人事業を営まれており事業所得が発生している方は、e-taxによる電子申告を行うべき十分な実利上のメリットが発生する事となりました。

 

ちなみに、この改正は平成32年分以後の所得税について適用されます。

ビットコイン等の仮想通貨と個人の税金

ビットコインの仮想通貨を個人で売買した場合の所得税の扱いについて、国税庁より所得区分の取扱いが先日公表されました。

 

それによれば、事業活動により発生した損益等の場合を除き、原則として雑所得として扱われることとなります。通常の方の場合、ビットコインの売却益は雑所得として扱われると考えて良いでしょう。

 

雑所得となる場合の税率ですが、他の総合課税の対象となる所得と合算しての累進課税となります。

 

従いまして、ビットコインで同じ金額の利益を得た場合でも、他に所得がない方と比較して、給与や事業所得がある方は、より高い税率となります。

 

例えば、他に所得があまりないような方の場合、住民税との合算で約15%の税率で済むことになりますが、高額の給与や事業所得等がある方の場合、税率は住民税との合算で最大約55%程度となります。

 

なお、雑所得となる場合、雑所得間でしか損益の通算が出来ません。大多数の方の場合、仮想通貨の売却益が発生し雑所得が発生すると、所得税の納税は不可避であると考えて頂いた方がよいかと思います。

 

ちなみに、ビットコイン以外の仮想通貨について、国税庁が今回示した見解に記載はありませんが、少なくともビットコインと同じような仕組みの仮想通貨である限りは、同様の所得区分になると考えられます。

 

なお、消費税に関してですが、平成29年7月1日以降は非課税扱いとなっています。

専従者給与と、その注意点

個人事業主が家族に仕事を手伝ってもらってお金を支払う場合、他の人にお金を支払うのと違い、そのままでは経費になりません。

専従者給与の制度を利用して専従者控除を取ることで、初めて経費と同じような扱いとすることが出来ます。

この専従者控除、個人事業主の方のなかでは活用されている方が多いです。

しかし、専従者給与には以下のような落とし穴があります。

1.専従者控除の適用対象とした方については、配偶者控除や扶養控除が受けられなくなる。

2.原則、その年を通じて6ヶ月以上、専らその仕事に従事している必要がある。基本的に、他の仕事が出来なくなる。

3.金額に限度がある。白色の場合、配偶者であれば86万円、それ以外の各人が50万円。また、専従者の給与を考慮に入れる前の所得から、事業主及び専従者の人数で割り算した金額を超えることは出来ません。なお当然、業務実態より妥当と考えられる給与金額を逸脱しない金額の範囲内の金額までしか認められません。

 

配偶者控除や扶養控除との重複適用、他の仕事をされている方への専従者控除の適用の誤り事例は、ご自身で申告をなされている方では散見される事例です。ご注意下さい。

相続された家が空き家のままの方へ ~譲渡所得の優遇措置が創設されました~

今年(平成28年)の4月1日から平成31年12月31日までの間に、被相続人の方がお亡くなりになられてそのまま空き家になっていた土地等を売却した場合、一定の要件を満たせば、個人の税金の計算上、売却益のうち3,000万円までを控除出来る制度が創設されました。

不動産の譲渡の際の税率は、計20.315%となるケースが一番多いかと思います。
売却益のうち3,000万円を控除出来れば、税率が20.315%の場合、600万円強、税額が安くなります。

この特例を利用できる具体的な主な要件ですが、

  • 譲渡のタイミングが相続開始日から3年を経過する日である年の年末までであること。
  • 相続または遺贈により引き継いだものであること
  • 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
  • マンション等区分所有の建物ではないこと
  • 被相続人の方がお亡くなりになられたタイミングで、被相続人のみがお住まいであったこと
  • 被相続人の方がお亡くなりになられた後、ずっと空き家であったこと
  • 空き家を取り壊し済みの場合、取り壊し済みの土地を貸したり、事業で使ったり、住んだりしていないこと
  • 空き家を取り壊し済みの場合、その後更地のままであること
  • 家屋を取り壊さず土地家屋をセットで譲渡する場合は、地震に対する安全性に係る規定又はこれに準ずる一定の 基準を満たしていること
  • 譲渡対価が1億円以内であること

などとなっています。

 

なお、この特例を利用する場合、この特例を受ける旨その他必要事項を記載等の上、確定申告を行う必要があります。

その他細かい注意点もございますので、具体的に相談をなされたい方は税理士等へご相談されることをお勧め致します。

今年より拡充されたNISAと、その注意点

NISAの制度が今年2016(平成28)年より改正され、利用対象者及び上限額について拡充が行われました。

 

NISAとは、少額投資非課税口座を開設してその口座内で上場株式、ETF,REITや株式投資信託等を購入すると、配当金や売却益などが、非課税となる制度です。

平たく言えば、少額の投資についてこの制度を使えば、儲かっても税金がかからなくて済むという制度です。

 

昨年の平成27年までは、1人年間100万円分の購入分までについて利用することが出来ました。これが、今年平成28年より1人年間120万円分の購入分まで利用することが出来るようになりました。

 

ちなみに、このNISAの制度。現在のところ期間限定です。平成35年までこの制度の存続が予定されており、平成35年までの残り8年間にわたって毎年120万円分を上限に上場株式や株式投資信託を購入して利用することが可能となっています。

 

また、ジュニアNISAと呼ばれる制度が新しく始まり、これまでこの制度を利用できなかった、0歳から19歳までの未成年も年間80万円を上限にこの制度を利用することが出来るようになりました。

 

 

NISAの注意点ですが、従前からの注意点については以前「日本版ISA NISAの上手な活用方法を考える」で取り上げましたので、こちらをご覧頂ければと思います。

 

さらに、今回新たにスタートするジュニアNISAの場合、上場株式等の購入資金の原資についても注意する必要があります。

具体的には、ご本人がもともとお持ちの資金を原資に投資を行うのではなく、例えばお爺さんよりお金をもらってなど、他の方から資金を貰ってジュニアNISAを利用した投資を行う場合、貰った資金について贈与税の非課税限度枠を超える場合は、通常の贈与と同様贈与税が発生することになります。

 

ジュニアNISAの上限額は年間80万円のため、贈与税の非課税限度枠を超えることはないと考えられる方もおられるかと思います。しかし、例えばジュニアNISAのために80万円、その他に100万円、と年180万円を贈与した場合、合算して贈与税の申告を行い納税する必要があります。

このことは、ジュニアNISAにだけでなく通常のNISAであっても同じです。しかし、ジュニアNISAの場合、資金の贈与とセットで行われる場合が多いと考えられるため、とくに注意しておく必要があります。